お針子 作業部屋

  帰国したお針子です

この夏を振り返る。

7月17日にセントレアに到着した後、実家に向けて高速船で移動せねばならない。

高速船は一時間おきの正時に出発する。
19時半頃に空港着では20時発には乗れないので、21時発の船を予定していたが、当日その船は臨時休便となっていた。最終便は22時。

ワタクシ達が日本に到着する数日前にかなりの大雨が降っていた。
上流では土砂や生木が押し流され、湾に流れ着いた漂流物は運行する大小の船にダメージをあたえていた。
高速船も例に漏れず、スクリューの点検の為に運航休止となったようだ。

20時過ぎに船着き場で運休を知り、駅に向かおうかとも思ったが、母子が大型スーツケースを4つと更に手荷物を抱えてこの時間帯に電車移動2時間半は、自分も周囲も辛い。
電車での移動をすんなり諦めて、22時の便を待つ事に決めた。

船着き場では21時便の運休を知らずに続々と乗客がやって来ては窓口で「えっ!22時まで無いの?」と驚き、その度に窓口担当者は「整備点検の為に」を繰り返す。
券売場を兼ねた待合室はそこそこ広く、備え付けのテレビだけが大きく響く中、着々と乗客は集まり続ける。

ワタクシ達が15分くらい待った頃、60代後半くらいの男性がやって来た。
窓口で件のやり取りをした後、おもむろに携帯で話し始めた。
「ワシやけど。それがさなー、9時のは運休なんやてー」
彼は待合室のテレビに対抗するくらいの大声で喋り続ける。
到着が遅れるコトを知り合いや家人に告げているのか、掛けては喋り、切ってはまた掛けて
関係各所に事情を知らせているようだ。
そして一軒ごと丁寧に経緯を話すので、どこからきてどこに行くのかまで知りえてしまった。
そのうち、アメリカの知り合いの話になり、彼の家に行った話になり
「ケント(仮)は元気やったよ。パパやママにも会って来たわ」
と旅の成果が待合室に筒抜け状態でも、電話の主は一向に気にしない。

最初はあまりにも通話の声が大きくてびっくりしたが、彼のやり取りを聞かされてるうちに、一般的なマナーとか常識とかを乗り越えたところに居るヒトなんだろうなーと笑えてきた。
ワタシ達以外に待合室に居たヒト達の中には苦々しい顔をしているヒトや「・・・マジか」と諦め声で小さくつぶやくヒトもいたが特に文句を言うワケでもなく、イヤホンで遮断するなどしてやり過ごしていた。

30分くらい待った頃に、女性の三人連れがやって来た。
「え、運休?」と言うやり取りの後、荷物を置いて残り少なくなったベンチを確保してから一人が待合の外に出て行った。
しばらくして戻って来たと思うと、空港のコンビニで買い物をしてきたらしきモノを他の二人に渡す。
ビールとつまみ。
三人は旅の締めくくりに、静かに酒盛りを始めた。
男性の電話の声はまだまだ続きそうだ。


静かに待ちたいヒトが居る一方、待ち時間を有効に使いたいヒトも居る。


早い時間にやってきていたワタシ達母子は、「え、運休?」のやり取りを15回は聞いた気がする。
待合室は40席分くらいのベンチはあるが、空港から手荷物を持った客が20人も入ればいっぱいになる。
運休した21時の便が出ていくはずだった時間を過ぎてしばらくすると、最終便の乗客は既に外に溢れ出していた。