お針子 作業部屋

  帰国したお針子です

魂の英会話

普段、会話は難しいんで魂で通じさせている。
もしかしたらアメリカ人は日本語通じるんかもしれん、と思うこともしばしば。
「あつっ!」とか「いたっ!」とか「さむっ!」とかは日本語のままでむっちゃ通じてる気がする。
目の前にいる場合限定の英会話なんである。
普段から単語レベルでしか喋ってないからな。


今日はESLの日で、ワタクシ担当のポールは妻のエスターと一緒にご夫婦で来てくださる。

先週の水曜には、ポールは来なくてエスターだけが来てくれた。
「ポールはネットで勉強中なんよ。お昼から4時間も!PCの前で寝てるんやないかと思うわ」
と言いつつ、大袈裟に首を振って見せた。

「ポールは何を勉強してはんの?」
と聞くと

少し考えて
「お金の増やし方を勉強してるけど、半分寝てると思う」
仲良しご夫婦なだけに、こき下ろす冗談も面白い。
70代後半の同い年ご夫婦は、お二人のご両親が友達で、生まれた時からの幼馴染らしい。


本日の話題は、先月に行われたムスメの補習校の卒業式のコト。
エスターには先週の水曜に見せたムスメの着物姿を、今日はポールにも見てもらった。
ひとしきり麗しい言葉でほめて貰ってムスメも嬉しそうだった。

着物はワタクシが作ったと言うと、
「どのくらいやってるん?」
って聞かれた(と思う)ので、

「30年くらい」
と言うと、微妙な顔をした。
コレは違うこと聞いてるに違いないので、言い直した。

「この着物を作るのには3日くらいかかった」「この仕事を始めたのは30年くらい前から」
とまとめて言い直すと

「たくさんの工程があるに違いないのに3日で出来上がる?アメージングやな」
と言ってエスターと目を合わせて二人で「OH〜」とびっくりして見せた。

その後
「日本のシルクは有名やな」
と聞いてきた。

「100年以上前の話やね。日本の基幹産業で、主要輸出物の一つやったけど、今はもう民間の養蚕は廃れてしまった」
と答えたら

「もちろんそうやろうね」
と。

「民間での養蚕はほとんど無くなったけど、今も皇后陛下は日本原種の蚕を保護しておられるんやで」
と言うと、そうかそうかと頷いて、

「この着物はシルクなんか?何処で布を手に入れたん?」と聞いてきた。

「この布は日本から持ってきた。日本では絹の着物が多かったけど、絹やとアメリカで汚れをクリーニングできないので、この着物はポリエステルやで」
と答えると、

「そうか、ポリエステルなんやな」と納得した様子。


「ポールやエスターは着物を着たコトはあるん?」
と聞いてみると

「ない。でもわたしの兄弟は空軍やって、日本に行ってた時にシルクのジャケットを着た。背中に大きな龍の絵のあるジャケットやった。まだわたしが小さい時の話やで」
と身振り手振りでポールが言った。

年齢的に、大東亜戦争の後の駐留軍としてご兄弟が赴任されていたのだろうと思われる。
シルクのジャケットに龍と言われるとスカジャンか羽織の裏のどっちかやと推察。
でも着物を着たか?の質問にこの返答なんで、おそらく羽織のコト。

(羽裏は羽二重に様々な絵が描かれている。多いのは龍、鷹、富士山あたりで、風景画も多い。
20年くらい前には紬のアンサンブルを山ほど仕立てたが、春画からピクトグラムまであって、羽裏で粋が量れると今でも思っている)

ワタクシはその時着ていたジャケットの裏を指差して「裏にDRAGON?」と聞き、ポールが頷いたので
「そのSILKのJACKETはHAORIと言うんやで」
と言うと

「そうか、もっかい言って。HAORIな。へー、HAORIか」
と、いつも持ってきているフォルダに書き留めていた。



「さて、今日は何をする?」とポールが聞いてきたので、先々週お願いした仲良し夫婦の若い頃の写真を持ってきてくれた?と聞くと

「あ、忘れた!そやった、忘れてきたわ」
と言いつつ、いつも持ってきているフォルダに「PICTURE!」って大きく書いて
「コレで次は忘れへんで!」
と笑った。

彼らの若い頃はデジカメもスマホもないから、リビングに飾ってある写真をスマホで撮ってくるそうな。
楽しみである。


相手の言ってるコトや言わんとするトコロはなんとなくわかる。
分からない単語があり過ぎて脳内連想ゲーム状態だが、善意と良識で接してくれるヒトとの会話は成り立つ。
しかし、ワタクシの主語+動詞レベルの英語力で思ったコトや言いたいコトをいうのは無理。
上記の会話は単語を引き引き、トランスレートを使いまくりなんである。
その連打がポールには不思議だったらしい。

「ジャパニーズのキャラクターは何個あるん?」
と聞かれたので、51個やでと答えると、

「なんでそんなにあるのに10個のボタンに収まるん?」
と。
いつもケータイを高速連打しているのを不思議やなぁと思ってみてたんやな。
フリック入力が苦手なだけなんやけども・・・

「日本語はAIUEOの母音に、Kを付けるとKAKIKUKEKOになって、SやTやNを付けるとまた違うキャラクターが出来上がる」

フリック入力の十字ボタンで隠されたカ行以下を見せると、これまた「OH〜」

「わ・うぃ・う・うぇ・を」と「やいゆえよ」やから、現行で使われているカナ数は四十六文字なんやけど、その辺を説明するのは難しすぎて端折ってしまった。
間違ったコトを教えたと思われても悲しいので、お伝えできるかぎりの正確な情報をノートに書いて準備していく予定。
(こないだはSUKIYAKIはご馳走か?と聞かれたので、それについてノートに書いていった)


ポールはもともと好奇心旺盛なヒトなのだと思う。
好奇心に満ちた男の子は年を経て、さらに温厚で我慢強く寛大な永遠の壮年になったのかもしれない。
ポールもエスターもワタクシの父母と同年代なんだけども、見た目も体の様子もかくしゃくとしていて10歳は若く見える。

身に付けているモノもいつも清潔でオシャレ。

エスターは三週くらい前のESLには赤いブーツと赤いコートで来た。
とても素敵だったので「むっちゃ似合う」と言うと、彼女は美しい笑顔で「ありがとう」と言った。
その時はポールも革ジャンを着ててとてもかっこよかったので、ESLの後どこかに連れ立ってお出かけだったのかもしれない。
生活スタイルが全く違うからか、日本の後期高齢者よりもずっと自由に生きている気がする。


現地在住の日本人にそのことを話すと
「キリストさんの大学関連でのボランティアやから、聖人みたいなヒト達やで」
と言っていたが、誠にその通り。

微妙なニュアンスを知らないがゆえに間違った使い方をし、アホ英語に混乱させられることも、バカにした言い方になってるコトもあると思う。
どんな状況でESLのボランティアを始めたのかはわからないけれど、とにかく善いヒト達なのである。
出会えて嬉しい気持ちは、どうやったら伝わるだろうか。